最後のブログ(仮)

90年代以降作り散らしたblog的なものの最後

猪苗代湖

1987年7月30日

朝、砂浜の狭いテントの中で目を覚ました。朝日が眩しくて自動的に起きてしまった。また喫茶店でモーニングでも食べ、荷造りをして出発した(はず)。

高速道路を通らずに下道をひたすら走るつもりだったので、国道をトコトコ走った。事前に調べておいたルートを紙に書いてタンクに貼っておいた。白河で国道が複雑に入り組んでいて、間違えるとめんどうなことになるからだ。今、当時から考えると夢のようなGoogle Mapを使ってルートの確認をしながら書いているが、たしか海沿いに北上し、白河から国道294号線を北上したはずだ。

冒険、とは不自由さとの闘いがその本質にあるのかもしれない。だがその不自由さとは、人工的に作り出した「敢えて先進機器を持たない」ではなく、最大限に装備を強化してもなお満たされず甘受せざるを得ない類の不自由さだ。だからもし今同じことをしようとすればGPSと通信機能が内蔵されたiPhoneを最大限に活用するだろう。だが、二輪車ゆえの荷物の不自由さは受け入れる。次男が友人2人と自転車で北海道を目指したのはちょうどそれに相当するのかもしれない。

猪苗代湖には夕暮れのちょっと手前に着いた。桃色に染まった霞が一面を覆っていて夢のような美しさだった。無謀にも独りで北海道へ向けてツーリングに出たことの喜びが脳天を直撃し、その価値をガツンと知ったのがこの瞬間だった。今ならばどうということはないが、極めて狭い範囲で生きてきた当時の自分にとってこれは紛れもなく冒険だった。こういう景色に出会うためにひとりで旅に出たんだ、と痛切に感じた。

テントを張り野宿の準備をした。水着と無公害石鹸を持ってきていた。湖で泳ぐのと同時に身体も洗ってしまう算段だった。しかしテントを張った岸からだとやたら浅くてうまく泳げず、身体を洗っただけだった。